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簡易裁判所における訴訟手続

小規模(訴額が140万円以下)の民事訴訟事件については、簡易裁判所が第一審の裁判権をもつことになります。今回は、この簡易裁判所における訴訟手続についてのトピックです。

訴訟を提起された被告としては、対応コストがかかることになります。とりわけ、遠方の管轄裁判所で訴訟を提起された場合、対応コストは確実に増えます。書面の作成や証拠の収集等のコストはもちろん、裁判所に出頭しなければならないというのが増大するコストです。


では、一回も出頭せずに、当方の主張をすることはできないか?簡易裁判所の訴訟手続では、できるのです。

簡易裁判所の訴訟手続に関しての特則が設けられています。

(私が日ごろよく通っております主戦場の)地方裁判所の訴訟手続においては、最初の口頭弁論期日に限り、出頭しなくても、当方の主張を書いた書面を陳述したものとみなしてくれます(民事訴訟158条。擬制陳述)。訴えられた被告側の訴訟代理人が、とりあえず答弁書を出しておいて、1回目の期日には都合がつかないため、出席しないということはままあることです。

この擬制陳述について、簡易裁判所の訴訟手続の特則として、最初の口頭弁論期日以外の期日(続行期日)でも、適用されることになっています(民事訴訟277条)。

そのため、簡易裁判所の訴訟手続においては、一回も出頭せずに、答弁書準備書面を提出して主張をすることはできるということになります。


ここまでは条文そのとおりなので、わかりやすいと思います。

では、少し問いを変えて、一回も出頭せずに、当方の主張を裏付ける証拠を提出することはできないか?を考えてみます。

上で述べたように、簡易裁判所の訴訟手続においては、擬制陳述の制度を、最初の口頭弁論期日以外の続行期日にも認めていることからすれば、できそうですよね。そう思われませんか?

ちなみに、民事訴訟法は、「証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる。」という定めもおいています(民事訴訟183条)。


ですので、証拠も提出できてよいのでは、、、とも思うのですが、結論としては、(原則)できません。

だったら、擬制陳述とかって、ほぼ意味なしですよね。

というのは、民事訴訟は、裁判所を説得する精緻な主張書面を作成したうえで提出することは重要ですが、裁判所は、他方当事者が争う限り、それだけでは事実として認めてくれず、自分の主張を裏付ける証拠を出せるかが勝負の決め手となるからです。


なぜ証拠の提出は「できません」という結論になるのかというと、文書の証拠を書証と呼ぶのですが、民事訴訟法は「書証の申出は、文書を提出し……なければならない」と規定しており(民事訴訟219条)、ここでいう「提出」は、文書の所持者が出頭して顕出することが必要と解釈されていることがその理由のようです(旧民事訴訟法に関する判決ですが、最高裁昭和37921日第二小法廷判決・民集1692052頁参照)。


確かに擬制陳述という制度はあっても、同制度は出頭自体を擬制しているのではなく、陳述を擬制しているにすぎないため、事前に裁判所に文書を送付していたとしても、実際に出頭しない限り、書証の申出があったとは認められず、裁判所は取り調べてくれないこととなっています。


さて、困りましたね。そこで、私がトライするのは、電話会議システムを利用した弁論準備手続に付してもらうよう求めること(上申書の提出)です。
弁論準備手続とは、法廷で行われる口頭弁論手続ではなく、裁判所の小部屋で行われる争点及び証拠の整理を行うための手続です(民事訴訟1681項)。ちなみに、実務では、和解の協議も、この弁論準備手続で行われることが多いです。

裁判所が、電話会議システムを利用した弁論準備手続を付すと、こちらは裁判所に行かずとも電話で対応することができます(民事訴訟1683項)。

この場合、電話で参加した側の当事者については、「出頭したものとみなす」と規定されているのです(民事訴訟1684項)。

この規定に基づき、出頭自体が擬制されるのです。

そこで、先ほどの議論に戻って、出頭して顕出したということになり、書証の申出があったということで、裁判所も、証拠を取り調べてくれるのです。


弁論準備手続に付すかどうかはあくまでも裁判所が決めることですので、以上述べた方法が必ずしも「使える」わけではありませんので注意が必要です。